目次
- 1 負動産を相続放棄する前に知っておきたい3つの基本ルール
- 2 「自分はどのケース?」5つの軸で判断する診断フロー
- 3 軸①:期限——3か月ルールの正しい数え方と期間伸長
- 4 軸②:遺産全体の収支——負動産だけで判断してはいけない
- 5 軸③:占有・管理状況——「現に占有」が放棄後の義務を決める
- 6 軸④:放棄前の行為——やってよいこと・やってはいけないこと
- 7 軸⑤:後順位相続人——自分の放棄が親族に与える影響
- 8 【ケース別】相続人全員が放棄したらどうなるか
- 9 【選択肢比較】相続放棄以外の方法——「負動産」を手放す残りの道
- 10 よくある質問(FAQ)
- 11 まとめ:まずは5軸で自分の状況を整理し、次の行動を決める

負動産(売れそうにない・維持費が重い不動産)を相続した場合でも、相続放棄をすれば固定資産税や管理の負担からは法的に離脱できます。ただし、負動産だけを選んで放棄することはできず、被相続人のすべての財産・債務を失います。また、2023年の民法改正で、放棄後の保存義務は「現に占有」する者に限定されました。
この記事で整理できること:
- 負動産の相続放棄が「できること」と「できないこと」の3つの基本ルール
- 自分はどのケースか——5つの軸で判断する診断フロー
- 期限が迫っている場合の期間伸長と、3か月経過後の可能性
- 遺産全体の収支に基づく「放棄すべきか・売却すべきか」の判断基準
- 放棄後の保存義務が残る人・残らない人の具体的な分かれ目
- 放棄前にやってよい行為と、やってはいけない行為の区分
- 自分の放棄が親族(後順位相続人)に与える影響と対策
この記事を書いた人
訳あり不動産 買取相談センター 編集部
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負動産を相続放棄する前に知っておきたい3つの基本ルール
「売れそうにない不動産だから相続放棄しよう」と考える前に、相続放棄の制度そのものの性質を押さえておく必要があります。ここでは、負動産と相続放棄に関わる3つの基本ルールを整理します。
ルール①:負動産だけを選んで放棄できない
相続放棄は、被相続人が残したすべての財産(預貯金・有価証券・不動産・自動車・貴金属など)とすべての債務(借金・未払金・保証債務など)を、まとめて承継しないという手続きです。「この土地だけ」や「負動産だけを選んで放棄」することは法的に認められていません。
遺産分割で「この不動産は相続しない」と決めることとは異なり、相続放棄をすると、自分は最初から相続人ではなかったという法的地位になります(民法第939条)。相続放棄をした人が、放棄後にその不動産の固定資産税を支払う義務も、管理を継続する義務も、原則としてなくなります(ただし現に占有している場合は後述の保存義務あり)。
混同しやすいポイント
- 「遺産分割で不動産を取得しない」=相続放棄ではない。遺産分割で取得しなくても、相続人としての地位は残る。債務は法定相続分で承継している。
- 「持分放棄(共有持分の放棄)」=相続放棄ではない。共有持分を他共有者に帰属させる別制度。相続とは関係ない。
- 「限定承認」=遺産の範囲内で債務を負う制度。共同相続人全員で行う必要があり、単独の相続放棄とは異なる。
ルール②:原則3か月以内。ただし「調査未了」なら期間伸長がある
相続放棄の申述(家庭裁判所への手続き)は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法第915条第1項)。この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、単に被相続人の死亡を知った日ではなく、自分が相続人であることと、相続財産の存在を認識した時を指すと解されています。
たとえば、被相続人の死亡は知っていたが、遠方にあった空き家や山林の存在を知らなかった場合、それらの不動産を認識した時から3か月が起算点となる可能性があります。ただし、この認識時期をめぐって争いになることもあるため、早めに調査・判断を始めることが安全です。
調査が3か月以内に終わらない場合、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てをすることで、期間を延ばせます。申立て費用は収入印紙800円+郵便切手で、申立て自体は3か月以内に行う必要があります(裁判所公式案内より)。「査定結果待ち」「登記簿の収集が終わらない」「他の相続人と連絡が取れない」などの理由で判断できない場合、焦って何もせずに期限を過ごすより、期間伸長の申立てを検討すべきです。
【現場から】「査定結果待ち」で放置しない
「買取査定を依頼したが結果がまだ出ていない」「登記簿を確認中」という状態のまま3か月が過ぎてしまうケースは少なくありません。査定結果次第で放棄するか売却するかを決めようと考えていた場合、結果が出る前に期限が来ると、放棄する権利そのものを失うリスクがあります。査定依頼と同時に、家庭裁判所への期間伸長申立ての準備を進めておくことが現実的です。
ルール③:放棄後も「現に占有」していれば保存義務が残る
2023年4月1日施行の改正民法第940条第1項では、相続放棄をした者の保存義務は「放棄の時に相続財産を現に占有している者」に限定されました(改正前は放棄者全員が管理義務を負うとされていました)。
「現に占有」とは、単に権利や名義の話ではなく、その財産を事実上支配している状態を指します。具体的には以下の要素が総合的に判断されます。
- 居住の事実:被相続人が住んでいた家に引き続き自分が住んでいる
- 賃貸管理:賃借人から賃料を受け取り、設備の不具合に対応している
- 鍵の所持と施錠管理:物件の鍵を管理し、出入りをコントロールしている
- 家財の管理:被相続人の家財道具を預かり、処分や保管をしている
- 修繕・管理の実施:雨漏り修理、草刈り、樹木の剪定などを自ら行っている
遠方に住んでいて空き家の鍵も持っていない、賃貸管理を全くしていないといった場合には、「現に占有」に該当しない可能性が高く、保存義務を負いません。ただし、実際の判断は、鍵の所持の有無だけでなく、物件に対する事実上の支配の程度によって個別に決まります。
保存義務がある場合、その義務は「次の相続人」または「相続財産の清算人(家庭裁判所が選任した清算人)」に財産を引き渡すまで継続します。故意・過失で財産を損傷させると損害賠償責任が生じる可能性があるため、注意が必要です。
「自分はどのケース?」5つの軸で判断する診断フロー
以下の5つの質問に当てはまるかどうかを確認してください。この診断で、「優先して確認すべき軸」がどれかが分かります。
| No. | 質問 | Yes / No | 優先して読む軸 |
|---|---|---|---|
| ① | 被相続人の死亡日(または相続開始を知った日)から3か月が迫っている、または過ぎている | ☐ Yes / ☐ No | 軸①:期限 |
| ② | 負動産以外に預貯金・有価証券・売却可能な不動産などのプラス財産がある | ☐ Yes / ☐ No | 軸②:遺産収支 |
| ③ | 自分が当該不動産に住んでいる、賃料を受け取っている、鍵を管理しているなど、物件を事実上支配している | ☐ Yes / ☐ No | 軸③:占有状況 |
| ④ | すでに不動産の査定を依頼した、家財を処分した、固定資産税を支払った等の行為を行っている | ☐ Yes / ☐ No | 軸④:放棄前の行為 |
| ⑤ | 自分以外の相続人(子・兄弟姉妹・甥姪など)がおり、自分が放棄した場合に負担が移る | ☐ Yes / ☐ No | 軸⑤:後順位者 |
「Yes」が多かった軸から優先して読み進めてください。特に①期限がYesの場合は、早急に行動を起こす必要があります。
軸①:期限——3か月ルールの正しい数え方と期間伸長
3か月は「死亡日」ではなく「相続開始を知った時」から
相続放棄の3か月は、被相続人の死亡日ではありません。「自己のために相続の開始があったことを知った日」が起算日です(民法第915条第1項)。
たとえば以下のようなケースでは、死亡日からずれて起算される可能性があります。
- 遠方の親族で、死亡から1か月後に連絡を受けた → 連絡を受けた日が起算点
- 相続財産に多額の借金があることを死亡から2か月後に初めて知った → 借金を認識した日が起算点となる可能性
- 遺言書の内容を死亡から3週間後に知り、そこに負動産が含まれていた → 遺言の内容を確認した日が起算点となる可能性
ただし、「知らなかった」という主張が容易に認められるわけではありません。通常の調査で確認できたはずの財産については、死亡日から起算される可能性が高いため、早めの行動が安全です。
調査が終わらないなら期間伸長の申立てを検討する
冒頭のルール②でも触れた通り、3か月以内に遺産の全容が把握できず、放棄するか相続するか判断できない場合は、家庭裁判所に期間伸長の申立てができます。申立てのポイントは以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立て先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 申立て費用 | 収入印紙800円(相続人1人につき)+連絡用郵便切手 |
| 申立て時期 | 3か月以内(伸長の申立て自体も3か月以内が原則) |
| 必要書類 | 申立書、被相続人の戸籍関連書類、相続人(申立対象者)の戸籍謄本など |
| 伸長の理由 | 「遠方の不動産の調査が終わらない」「遺産の内容に不明点がある」など具体的な事情が必要 |
期間伸長は、裁判所が「調査してもなお判断できない」と認めた場合に認められます。単に「迷っている」だけでは認められにくいため、どのような調査をどこまで行ったのかを記録に残し、それでも判断できない理由を具体的に説明できるように準備しておくことが重要です。
3か月を経過しても放棄できる場合がある
死亡日から3か月を経過していても、以下のようなケースでは相続放棄が認められる可能性があります。
- 相続開始を知ったのが最近:相続人であることや負動産の存在を最近になって初めて知った場合、その認識した日から起算される
- 後順位相続人のケース:先順位の相続人が全員放棄したことにより、自分が相続人になったことを知った日から起算される(自分自身の3か月が新たにスタート)
ただし、経過後の申述は裁判所の判断が分かれる可能性があるため、弁護士や司法書士に個別の相談をしてから進める必要があります。自分で「3か月経ったからもう無理」と諦める前に、専門家に確認することをおすすめします。
軸②:遺産全体の収支——負動産だけで判断してはいけない
相続放棄をするかどうかを判断するうえで最も重要なのが、負動産以外の財産を合わせた「遺産全体の収支」です。負動産だけを見て「売れそうにないから放棄しよう」と決めるのは早計です。
【比較表】相続放棄 vs 相続して売却 vs 国庫帰属
| 選択肢 | 預貯金等の扱い | 負動産の処分 | 手続きの難易度 | 費用の目安 | 向くケース |
|---|---|---|---|---|---|
| 相続放棄 | すべて失う | 手放せる(占有者は要管理) | 中(戸籍収集・申述) | 800円+切手 | 遺産全体が明らかな債務超過 |
| 相続して仲介売却 | 維持できる | 売却して換金 | 高(買い手探し・契約) | 仲介手数料3%+6万円+消費税 | 市場価値があり売却期間に余裕がある |
| 相続して専門買取 | 維持できる | 即時現金化 | 低(査定→契約) | なし(買取価格から控除) | 早期処分したい・建物ありで国庫帰属不可 |
| 国庫帰属 | 維持できる | 国へ移管(要審査・負担金) | 高(書類準備・審査) | 審査手数料14,000円/筆+負担金(不動産の種目や広さにより20〜80万円以上) | 土地のみ・境界明確・建物なし |
【具体ケース】数字で見る「相続放棄で損をするパターン」
負動産だけに注目すると見落としがちな「遺産全体の収支」を、具体的な数字で見てみましょう。
ケース:実家(築50年・空き家)と預貯金500万円を相続したAさんの場合
・実家の買取査定:50万円(立て替え費用の不要な現況買取)
・実家の固定資産税:年間8万円
・預貯金:500万円
Aさんが相続放棄を選んだ場合:
→ 固定資産税の問題は解決するが、預貯金500万円も失う。手残りは0円。
Aさんが相続して専門買取を選んだ場合:
→ 実家を50万円で売却。預貯金500万円は維持。固定資産税は売却までの数か月分のみ。
手残り(大まかな目安):500万円+50万円-諸費用(印紙代・登記費用等)=約548万円
差し引き:548万円の違いが出る。「負動産」という印象だけで放棄を決めると、数百万単位で損をする可能性があります。
もちろん逆に、負動産に買取価格がつかず、預貯金も数十万円しかないケースでは、相続放棄で債務から逃れられるメリットのほうが大きくなります。重要なのは、負動産単体の印象ではなく、遺産全体の収支を数字で比較することです。
「法律上の可否」「実務上の離脱」「経済的な合理性」——3つの段階で判断する
相続放棄を検討する際に知っておくべきなのは、以下の3つがすべて別の判断軸だということです。
| 判断の段階 | 問い | 例えば |
|---|---|---|
| ①法律上の可否 | 法律的に相続放棄はできるか | 期限内か、単純承認にあたる行為をしていないか、申述資格があるか |
| ②実務上の離脱 | 放棄後に本当に固定資産税や管理から離脱できるか | 現に占有していないか、自治体への放棄受理証明書の提出が必要か |
| ③経済的な合理性 | 放棄が最も得か、それとも売却・国庫帰属のほうが得か | 預貯金を失っても借金から逃れられるか、預貯金を残したうえで売却したほうが手残りが大きいか |
多くの読者は「①法律上できる」だけで「③経済的に合理的」と短絡しがちです。この3段階を分けて考え、「①はクリアしているか」「②はクリアできるか」「③の比較で放棄が最善か」と順番に検討することで、判断の精度が上がります。
遺産全体でプラスなら、放棄より売却が合理的なケース
以下の条件に複数当てはまる場合、相続放棄より相続して売却したほうが手取りが大きい可能性があります。
- 預貯金や有価証券が数百万円単位である
- 負動産(空き家・土地)に数十万円以上の買取価格がつく可能性がある
- 建物付き土地で国庫帰属制度が利用できない
- 3か月以内に放棄の判断ができず、法定単純承認になりそうである
このケースでは、「相続放棄=すべてを失う」というデメリットよりも、相続して負動産を売却・買取に出したほうが純粋な手取り額が大きくなります。
遺産全体が債務超過なら、相続放棄の優先度が高い
以下の条件に当てはまる場合、相続放棄の優先度が高くなります。
- 被相続人に多額の借金(住宅ローン残債・事業の借入・クレジットカードの未払い)がある
- 負動産の固定資産税や管理費の負担が預貯金を数年で超える見込み
- 負動産に買取価格がほとんどつかず、売却しても諸経費で相殺される
- 共有者が多く、売却には全員の同意が必要で調整が難しい
ただし、遺産全体が債務超過かどうかの判断には、被相続人の全ての債務を正確に把握する必要があります。信用情報機関の開示や債権者からの通知を確認するだけでも時間がかかるため、早めに着手してください。
【現場から】名寄帳と登記事項証明書で遺産総額を確認する
「空き家だけが相続財産だと思っていたら、被相続人が預けていた少額の預金や貸付金、公社債などが見つかった」というケースは珍しくありません。固定資産税の通知書だけを見て判断せず、市区町村で「名寄帳」(1月1日時点の土地・家屋の一覧)を取得し、法務局で「登記事項証明書」を取ることで、不動産以外の財産も含めた遺産全体の姿を把握できます。まずはここから始めると、判断を誤りにくくなります。
軸③:占有・管理状況——「現に占有」が放棄後の義務を決める
相続放棄をしたあとに、その不動産の管理を続けなければならないかどうかは、自分が「現に占有」しているかどうかで決まります(改正民法第940条第1項)。これは単に「名義が被相続人のままか」ではなく、物件を事実上支配しているかどうかで判断されます。
2023年改正で変わった保存義務の範囲
2023年4月1日施行の改正前は、相続放棄をした者全員が「次の相続人が管理を始めるまで」財産を管理する義務を負うと解釈されていました。しかし改正後は、放棄時に「現に占有」する者のみが保存義務を負い、それ以外の放棄者は原則として管理する必要がなくなりました。
この改正は、遠方の空き家や山林の相続放棄をしようとする人にとって大きな意味を持ちます。
注意
「現に占有」の判断は、鍵の所持だけでは決まりません。以下の要素を総合的に記録しておくことで、後日「占有者」とみなされるリスクを減らせます。
| 占有と評価されやすい状態 | 占有と評価されにくい状態 |
|---|---|
| 自分がその家に居住している | 遠方に住んでおり、物件に行ったことがない |
| 賃貸人として賃料を受け取り、設備対応をしている | 賃貸管理を管理会社に委託している(委託先が実質管理) |
| 鍵を所持し、施錠・解錠を自分で管理している | 鍵を親族や近隣住民に預けたままにしている |
| 被相続人の家財道具を保管・管理している | 家財はすでに処分・撤去され、物件は空の状態 |
| 定期的に草刈り・清掃・修繕を行っている | 草刈り等を一切行っておらず、放置状態 |
【現場から】誰が物件の「支配者」かを記録しておく
両親が亡くなり、兄と長女の2人が相続人となったケース。兄は実家から車で30分の距離に住み、ときどき様子を見に行き、庭の草刈りをしていた。長女は遠方で、相続開始を知った後に一度も現地に行っていない。この場合、兄は「草刈りを定期的に行っている」という事実から現に占有と認定される可能性があり、放棄後も保存義務を負うリスクがある。一方、長女は保存義務を負わない可能性が高い。このように、誰がいつ・何をしたかという事実を時系列で記録しておくことが、放棄後のトラブル防止に役立ちます。
保存義務が残る人・残らない人の具体例
保存義務が残る人(現に占有と評価されやすい)
- 被相続人が一人暮らしだった家に、相続人が同居していた
- 被相続人名義の賃貸物件を相続人が管理し、賃料を受け取っていた
- 被相続人の遺品整理のために家財を自宅に運び込んだ
保存義務が残らない可能性が高い人
- 遠方居住で、被相続人の死亡後も物件に足を運んでいない
- 物件の鍵を所持しておらず、誰が所持しているかも把握していない
- 管理会社が全面的に物件を管理しており、自分は関与していない
なお、保存義務がある場合でも、その義務は「適切な管理者に引き渡すまで」の範囲です。故意や重過失がない限り、通常の経年劣化による価値減少まで責任を問われることは通常ありません。
軸④:放棄前の行為——やってよいこと・やってはいけないこと
相続放棄をする前に、ある行為を行ってしまうと、それが「単純承認」(=すべての財産・債務を承継したとみなされる状態)に該当し、放棄できなくなる可能性があります。特に負動産の処理を急ぐあまり、うっかり単純承認の要件を満たしてしまうケースが少なくありません。
単純承認とみなされる主な行為は、民法第921条で以下の3つに定められています。
- 1号(財産の処分):相続財産の全部または一部を処分したとき。預金の全額解約、不動産の売却、高価な貴金属・骨とう品の処分などが典型例。
- 2号(期間徒過):3か月以内に放棄・限定承認の申述をしなかったとき。
- 3号(隠匿・費消):放棄または限定承認をした後でも、相続財産を隠したり、故意に浪費したとき。
ただし、すべての行為が一律に単純承認になるわけではありません。裁判例上、以下の行為は「処分」に該当せず、単純承認にならない可能性があります。とはいえ、自己判断はリスクが大きいため、専門家に確認することを推奨します。
- 葬儀費用・墓石代の支出:被相続人の葬儀に関する費用は、社会通念上必要な支出であり、「財産の処分」にはあたらないと解される傾向があります。
- 腐敗物・廃棄物の除去:腐食した食品や害虫の発生源など、衛生上放置できないものの廃棄は保存行為として認められる可能性があります。
- 雨漏りなど緊急の応急修繕:財産の価値を維持するための保存行為は、「処分」ではなく「管理」の範囲と評価される傾向があります。
【区分表】OKな行為とNGな行為
| 区分 | 行為の例 | 判断の基本 |
|---|---|---|
| おおむねOK | ・不動産の査定依頼・内覧対応 ・登記事項証明書や名寄帳の取得 ・腐朽物・腐敗物の廃棄(保存行為) ・雨漏り修理などの緊急修繕(保存行為) ・葬儀費用・墓石代の支出 |
「処分」ではなく「調査」または「保存」の範囲。相続放棄の判断材料を集める行為は問題にならない。 |
| NG(単純承認リスク) | ・不動産の売却契約・所有権移転 ・預貯金の全額または大部分の解約・自身への振替 ・高価な家財(自動車・貴金属・美術品)の売却・譲渡 ・賃貸借契約の新規締結 |
相続財産を「自分のものとして処分」したと評価される行為。放棄前にこれをすると放棄できなくなる。 |
| 要相談(グレー) | ・固定資産税の支払い ・家財道具の整理(廃棄と処分の境界) ・ライフラインの解約 |
固定資産税の支払いは判例上、単純承認にならないとする見解がある一方、自己判断は危険。専門家へ確認するのが安全。 |
【現場から】査定はしても判断前に解体・家財処分は進めない
「空き家の状態が悪いから、解体してから相続放棄しよう」と考えた相続人がいました。ところが解体工事は「財産の処分」にあたる可能性が高く、このケースでは解体後に相続放棄をしようとしたところ、家庭裁判所から単純承認とみなされる可能性を指摘され、結果的に放棄が難しくなりました。葬儀費用や腐敗物の除去と、不動産の解体や高価な家財の売却は、法的に全く異なる評価を受けます。査定や調査のための立ち入りは問題ありませんが、「解体」「売却契約」「預金の移し替え」など、財産を消滅・移動させる行為は、放棄の判断が確定するまで絶対に行わないでください。
固定資産税の支払いと単純承認の関係
固定資産税の支払いが単純承認にあたるかどうかは、法律上明確に決まっているわけではなく、裁判例も分かれています。一般的には「課税されている以上、納税は義務であり、支払いをもって相続財産を処分したことにはならない」という考え方が有力です。
しかし、以下の点に注意が必要です。
- 支払いが「管理行為」とみなされる可能性:固定資産税の支払いを続けることで、「自分が物件を管理している」という事実を補強し、結果的に「現に占有」の判断材料とされるリスクがあります。
- 支払いをしないリスク:支払わなければ延滞金が発生し、差押えのリスクもあります。
現実的な対応としては、固定資産税の納付期限が迫っている場合でも、相続放棄の判断が確定するまで支払いを待ち、どうしても支払わなければならない状況なら、弁護士や司法書士に相談してから支払うことをおすすめします。
軸⑤:後順位相続人——自分の放棄が親族に与える影響
相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったとみなされるため、次順位の相続人が繰り上がって相続人になります。この仕組みを理解せずに放棄すると、自分が守りたかった親族(高齢の親・遠方の兄弟姉妹)に突然、負動産と債務が移ることになります。
相続順位のおさらい:子→直系尊属→兄弟姉妹→甥姪
法定相続人の順位は以下の通りです(民法第887条〜第890条)。
- 第1順位:子(および代襲相続人である孫・曾孫)
- 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)。第1順位の相続人がいない場合に相続人になる。
- 第3順位:兄弟姉妹(および代襲相続人である甥姪)。第1順位・第2順位がいない場合に相続人になる。
配偶者は常に相続人となり、上記の各順位の相続人と共同で相続します。
たとえば、被相続人に子が2人いるケースで、そのうちの1人が相続放棄をすると、放棄した人の相続分はもう1人の子に移ります。子2人がともに放棄すると、次は第2順位の直系尊属(被相続人の父母)に移ります。
【現場から】家系図で可視化してから連絡する
あるケースでは、長男が「自分さえ放棄すれば終わる」と思い、空き家の相続放棄を単独で行いました。しかし長男が放棄したことで、次順位の妹(遠方居住)に負動産と固定資産税の負担が突然移りました。妹はその負動産の存在すら知らず、突然届いた納税通知に驚き、長男との関係が悪化したという事例があります。
相続放棄を検討するときは、自分が放棄した場合に誰が次順位の相続人になるのかを、家系図に書き出して確認してから行動してください。特に、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)やその子である甥姪(代襲相続人)にまで影響が及ぶ可能性を考慮する必要があります。
後順位者に負担を移したくない場合の選択肢
後順位の相続人に負担をかけたくない場合、以下の選択肢を検討します。
- 相続して売却・買取に出す:負動産を現金化し、売却益を分配する。後順位者に負担を移さない。
- 限定承認を検討する:相続財産の範囲内で債務を負う制度。ただし共同相続人全員の合意が必要。
- 事前に話し合う:後順位者に「自分は放棄を検討しているが、そうなるとあなたに負担が移る可能性がある」と事前に伝え、全員で方針を決める。
【ケース別】相続人全員が放棄したらどうなるか
自動的には国庫帰属しない
よくある誤解の一つが、「相続人全員が放棄すれば不動産は自動的に国のものになる」というものです。実際には、全員が放棄しただけでは国庫帰属にはなりません。
全員が放棄した場合、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任し、その清算人が債務の弁済や残余財産の換価を行ったうえで、残った財産が国庫に帰属することになります(民法第951条〜第959条)。自動的に国庫帰属するわけではない点に注意が必要です。
相続財産清算人の申立てが必要になるケース
相続人全員が放棄した場合でも、誰かが家庭裁判所に「相続財産清算人の選任」を申し立てなければ、不動産は「所有者不在」の状態で放置されることになります。この間も固定資産税は課税され続けます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立て先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 申立てできる人 | 相続人(全員が放棄した後は、利害関係人や検察官) |
| 申立て費用 | 収入印紙800円+連絡用郵便切手 |
| 公告費用 | 官報公告料 約5,582円 |
| 予納金 | 相続財産の内容によっては清算人の報酬等の予納金が必要(金額は裁判所が個別判断) |
清算人が選任されると、清算人が不動産の管理・換価・債務の弁済を行い、残余財産を国庫に納めます。清算人が選任されるまでの間、現に占有している放棄者は保存義務を負い続けるため、早めに清算人選任の手続きを進める必要があります。
清算人の選任に必要な費用の目安
相続財産清算人の選任にかかる費用は、裁判所に納める印紙代と切手代のほか、清算人の報酬があります。報酬額は裁判所が相続財産の額や業務の内容に応じて決定するため、事前に確定的な金額を示すことはできません。財産がほとんどない場合でも予納金が必要になる可能性があるため、全員放棄のルートを選ぶ場合にも、最低限の費用負担を想定しておく必要があります。
【選択肢比較】相続放棄以外の方法——「負動産」を手放す残りの道
ここまで5つの軸で判断してきた結果、相続放棄が最善とは限らないことが見えてきたはずです。ここでは、相続放棄以外の選択肢を整理します。
| 選択肢 | 対象 | 手続きの期間 | 先払い費用 | 主なリスク・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 一般仲介売却 | 市場価値がある物件 | 3〜12か月 | なし(成約後に手数料) | 買い手が見つからないと長期化。負動産はそもそも一般市場で売れにくい。 |
| 専門買取 | 訳あり物件を含むほぼすべて | 2週間〜2か月 | なし | 市場価格より低めの価格。業者の選定が重要。 |
| 国庫帰属 | 土地のみ(建物なし) | 3〜6か月(審査期間含む) | 審査手数料14,000円/筆+負担金 | 審査要件あり(建物あり・担保権・境界不明等は却下対象)。負担金が高額になる場合がある。 |
| 相続放棄 | 全財産 | 1〜3か月(書類準備含む) | 800円+切手 | 全財産を失う。占有者は保存義務あり。後順位者に負担が移る。 |
遺産全体でプラスなら、相続して買取に出す選択肢も現実的
負動産と聞くと「売れない」と決めつけがちですが、実際には訳あり物件を専門に買い取る業者が多数存在します。再建築不可の土地、共有持分、空き家、老朽家屋など、一般の不動産会社では扱いにくい物件でも、買取実績のある業者であれば査定額がつくケースがあります。
特に以下のようなケースでは、相続放棄で預貯金まで失うより、相続して買取に出したほうが手取りが大きくなる可能性があります。
- 預貯金や有価証券など数百万円単位のプラス財産がある
- 負動産に数十万円以上の買取査定がつく可能性がある
- 建物付き土地で国庫帰属制度が利用できない
- 3か月が近くて放棄の判断が難しいが、単純承認になると決定的に不利
ただし、買取額は業者や物件の条件によって差が出ます。1社だけで決めると相場観がないまま契約することになるため、複数社で条件を比べるところから始めるのが安全です。
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よくある質問(FAQ)
Q. 負動産だけを選んで相続放棄できますか?
A. できません。相続放棄は、被相続人のすべての財産と債務をまとめて承継しない手続きです。負動産だけを選んで放棄することは認められていません。負動産を相続したくない場合でも、他の財産(預貯金など)も同時に失うことになります。
Q. 相続放棄の3か月はいつから数えますか?
A. 被相続人の死亡日ではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った日」から数えます。死亡を知っただけではなく、自分が相続人であること、および相続財産の存在を認識した時が起算点となります。ただし、認識時期をめぐる争いを避けるため、死亡日から起算して動くのが安全です。
Q. 3か月以内に調査が終わらなければどうすればいいですか?
A. 家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てができます。申立ては収入印紙800円+郵便切手で行えます。申立て自体は3か月以内に行う必要があります。「調査が終わらない」「遠方の物件を確認できていない」などの理由があれば、活用を検討しましょう。
Q. 死亡から3か月を過ぎたらもう相続放棄できませんか?
A. 必ずしもそうとは限りません。「相続開始を知った時」が死亡日より遅れている場合、その認識時から起算される可能性があります。また、後順位相続人が先順位者の放棄を知った時から、自分自身の3か月が新たにスタートするケースもあります。ただし、経過後の申述は裁判所の判断が分かれるため、弁護士や司法書士への個別相談が必要です。
Q. 放棄前に不動産の査定を依頼しても大丈夫ですか?
A. 査定依頼は問題ありません。査定は財産の「処分」ではなく「調査」の範囲であり、単純承認にはあたりません。買取業者に見積もりを依頼し、査定額を確認することは、相続放棄するか売却するかの判断材料として有効です。
Q. 放棄前に家の片付けや解体をしても大丈夫ですか?
A. 腐敗物の廃棄などの保存行為はおおむねOKですが、解体や高価な家財の処分はNGです。解体工事は「財産の処分」にあたる可能性が高く、行うと単純承認とみなされるリスクがあります。家財道具の処分も、価値のあるもの(骨とう品・貴金属など)を売却・譲渡すると単純承認になり得ます。葬儀費用や墓石代の支出は、一般に「処分」にあたらないと解されていますが、自己判断は避け、専門家に確認するのが安全です。
Q. 固定資産税を払うと相続放棄できなくなりますか?
A. 固定資産税の支払いだけで直ちに放棄できなくなるわけではありませんが、自己判断は避けるべきです。固定資産税の納税は法的義務であり、支払いをもって「財産を処分した」とは評価されにくいというのが一般の考え方です。しかし、支払いによって「財産を管理している=占有がある」とみなされるリスクも否定できません。放棄を検討している段階では、専門家に相談してから支払いを判断してください。納付期限が迫っている場合は、早めに相談することをおすすめします。
Q. 相続放棄しても固定資産税の通知が届いたらどうすればいいですか?
A. 家庭裁判所の「相続放棄受理証明書」または「相続放棄受理通知書」を市区町村の税務担当窓口に提出してください。相続放棄が受理されると、法的にはその人は初めから相続人ではなかったことになります。しかし、市区町村の課税システム上は名義が切り替わるまでにタイムラグが生じることがあるため、放棄受理の証明書を提示して課税対象から外してもらう手続きが必要です。
Q. 相続放棄したら、不動産の管理・保存義務はなくなりますか?
A. 自分が「現に占有」している場合は保存義務が残ります(改正民法第940条)。放棄時にその不動産を事実上支配している(居住・賃貸管理・鍵の管理など)場合は、次の管理者に引き渡すまで、財産を保管・管理する義務があります。遠方の空き家で鍵も持っていないなど、実質的に支配していない場合は保存義務を負わない可能性が高いです。
Q. 自分が相続放棄すると、次に誰が相続人になりますか?
A. 同じ順位内の他の相続人に移り、その全員が放棄すると次の順位へ移ります。子が放棄すると配偶者と他の子に。全員の子が放棄すると直系尊属(父母)に。直系尊属も全員放棄すると兄弟姉妹に。兄弟姉妹も全員放棄すると甥姪に移ります。放棄前に必ず家系図で確認してください。
Q. 相続人全員が放棄したら、不動産は自動的に国へ移りますか?
A. 自動的に国庫帰属するわけではありません。全員放棄後は「相続財産清算人」を家庭裁判所が選任し、清算人が債務の弁済や財産の換価を行ったうえで、残った財産が国庫に帰属します。この清算人の選任には申立てと費用(印紙代・公告料・予納金)が必要であり、自動的に処理が進むわけではない点に注意してください。
Q. 相続放棄と国庫帰属制度はどちらが得ですか?
A. 遺産の状況によります。国庫帰属制度は土地のみが対象で建物がある土地は使えず、審査手数料14,000円/筆に加えて負担金(20〜80万円以上)が必要です。一方、相続放棄は全財産を失いますが費用は数百円です。預貯金などのプラス財産を残したいなら国庫帰属、遺産全体が明らかな債務超過なら相続放棄、という使い分けが基本です。ただし、両方の条件を満たさないグレーゾーンも多いため、個別に比較してください。
Q. 相続放棄せずに売却したほうがいいケースはどんなときですか?
A. 預貯金など他のプラス財産があり、負動産に買取価格がつく可能性がある場合です。具体的には、預貯金が数百万円単位で存在する、負動産に数十万円以上の査定額がつく、建物があり国庫帰属が使えない、共有者全員の同意が得られる——これらの条件に当てはまるなら、放棄で全財産を失うより、相続して売却したほうが手取りが大きくなる可能性があります。
まとめ:まずは5軸で自分の状況を整理し、次の行動を決める
負動産の相続放棄は、正しく判断すれば固定資産税や管理の負担から離脱できる有効な手段です。しかし、以下の5つの軸を確認せずに「売れないから放棄」と決めると、かえって損をしたり、親族関係を悪化させたりするリスクがあります。
| 軸 | 確認すべきこと | Yesなら優先すべき行動 |
|---|---|---|
| ①期限 | 3か月はいつから?迫っていないか? | 期間伸長申立てまたは即時申述の相談 |
| ②遺産収支 | 負動産以外にプラス財産はあるか? | 収支表を作成し、放棄か売却かを比較 |
| ③占有状況 | 自分は物件を現に占有しているか? | 保存義務の有無を確認し、必要な管理を記録 |
| ④放棄前の行為 | 単純承認にあたる行為をしていないか? | NG行為があれば即座に中止し専門家相談 |
| ⑤後順位者 | 自分の放棄で誰に負担が移るか? | 家系図を作成し、該当者と事前に協議 |
この5つを整理したうえで、以下の3段階で最終判断をしてください。
ステップ①:法律上、相続放棄は可能か?
→ 期限内か。単純承認にあたる行為をしていないか。自分に申述資格があるか。
ステップ②:実務上、放棄後に負担から離脱できるか?
→ 現に占有していないか。放棄受理証明書を自治体へ提出する必要があるか。
ステップ③:経済的に、放棄が最も合理的か?
→ 遺産全体の収支を比較。預貯金を失っても借金から逃れられるなら放棄。預貯金や不動産の査定額を残せるなら売却・買取・国庫帰属を比較。
以上の判断がつかない場合、またはすぐに結論を出さなければならない場合は、弁護士・司法書士への相談、または複数の買取業者への査定依頼から始めることをおすすめします。
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