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相続したくない不動産の対処法|家だけ放棄できない理由と状況別の手放し方5選

目次

親の家や実家を「相続したくない」と思っても、不要な不動産だけを選んで相続放棄することはできません。相続放棄は遺産全体(現金・預貯金・有価証券・不動産・債務のすべて)を対象とする制度だからです。

この記事で分かること:

  • 親が存命中/死亡後3か月以内/相続済みの「今の段階」で取れる対応
  • 家だけ放棄できない理由と、制度を正しく理解するための混同ポイント
  • 相続放棄・遺産分割・国庫帰属・売却の5つの選択肢を比較し「自分に合う方法」を選ぶ手順

「家を相続したくない」と感じる理由は人それぞれです。遠方で管理が難しい、固定資産税や修繕費の負担に耐えられない、兄弟の誰も取得したがらない――そうした状況で、できることとできないことを整理します。

この記事を書いた人

訳あり不動産 買取相談センター 編集部
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【最初に】あなたはどの段階?3つの時点で異なる選択肢

「相続したくない」といっても、対策は親の生死と時間経過によって大きく変わります。まず、自分がどの時点にいるかを確認してください。

時点 主な選択肢 緊急度
①親が存命中 親の財産調査・名義確認・生前売却の検討・遺言や家族会議での方針決定 中程度(親の健康状態による)
②親の死亡後3か月以内 相続放棄(熟慮期間内)・限定承認・財産調査の完了 高い(3か月の期限あり)
③3か月経過or相続登記済み 遺産分割・相続登記・国庫帰属(土地のみ)・仲介売却・専門買取 中程度〜低い(ただし登記義務の3年期限あり)

ポイント

最も時間的制約が厳しいのは②の「親の死亡後3か月以内」です。この期間内に財産調査と放棄判断を終えられなければ、原則として相続放棄はできなくなります。逆に、3か月を過ぎていても焦る必要はなく、残った選択肢で最適な方法を選べば十分です。

この記事では、主に②と③の読者を中心に解説します。①(親が存命中)の読者は、親の財産状況・登記名義・借金の有無を早めに確認しておくことが最大の対策です。親の生前に相続放棄の手続きをすることはできません(死亡後に家庭裁判所へ申述が必要)。

そもそも「家だけ相続放棄」はなぜできないのか

相続放棄は、家庭裁判所に申述することで、被相続人(亡くなった方)のすべての権利と義務を一切承継しないという制度です(民法915条・938条)。ここで重要なのは、放棄の対象が「財産全体」であり、「特定の不動産だけ」を選べないことです。

よくある誤解が次の3つです。正しい理解を持っておかないと、判断を誤る可能性があります。

誤解1:「預貯金だけもらって、家だけ放棄できる」

できません。相続放棄は遺産全体を対象とするため、預貯金だけ残して家だけ放棄するという選択は法律上存在しません。預貯金を受け取った時点で、法定単純承認(=放棄不可)とみなされるリスクもあります(民法921条1号)。

誤解2:「遺産分割で家を取らなければ、放棄と同じ」

法的にはまったく別の制度です。

  • 相続放棄:相続人としての地位自体を失う。最初から相続人でなかったことになる。預貯金を含むすべての財産を受け取れない。
  • 遺産分割で家を取得しない:相続人としての地位は維持する。話し合い(遺産分割協議)で家を他の相続人に配分し、自分は預貯金など他の財産を受け取る。

つまり、兄弟姉妹がいて、家だけを別の相続人に渡して自分は預貯金をもらうということは、遺産分割の合意があれば可能です。ただし、家を引き取る相続人が見つからないと成立しません。

誤解3:「限定承認なら家だけ除外できる」

限定承認は「相続財産の限度で債務を承継する」制度であり、特定の財産だけを選んで承継しないわけではありません。また、共同相続人全員で家庭裁判所に申述する必要があり(民法923条)、ハードルが高いのが実情です。

最初にやるべきこと【相続財産の全調査】

どの選択肢を選ぶにしても、最初にやることは共通しています。相続財産の全容を把握することです。なぜなら、債務(借金・保証債務・未払金)が財産より多い場合、相続放棄が必要になるからです。債務超過の状態で相続すると、自分の財産から返済しなければなりません。

確認すべき項目チェックリスト

カテゴリ 確認項目 確認方法
プラス財産 預貯金・有価証券・不動産(土地・建物)・生命保険金・貸付金・退職金 通帳・証券会社の取引報告書・登記簿・保険証券・勤務先
マイナス財産(債務) 住宅ローン・カードローン・保証債務・税金の滞納・未払の医療費・公共料金・連帯保証 取引明細・督促状・役所の税務課・信用情報機関
不動産の状態 所有者名義・共有者有無・接道状況・建物の耐震性・空き家期間・残置物 登記簿(法務局)・固定資産課税台帳・現地確認
権利関係 賃借人の有無・借地権・抵当権・先取特権・居住者の有無 登記簿・賃貸借契約書・管理会社

2026年開始「所有不動産記録証明制度」を活用する

2026年2月2日から、自分の(または被相続人の)名義で登記されている全国の不動産を一覧リスト化する「所有不動産記録証明制度」が始まっています(不動産登記法119条の2)。

  • 請求できる人:①不動産の所有者本人、②相続人
  • 手数料
    • 窓口請求(書面):1通1,600円
    • オンライン請求+郵送交付:1通1,500円
    • オンライン請求+窓口交付:1通1,470円
  • 請求先:お近くの法務局(オンラインも可。登記供託オンライン申請システムから)

「親がどこにどんな不動産を持っているか把握しきれていない」という場合に、この証明書を取得すれば登記名義人の全国の不動産がリスト化されます。相続財産の棚卸しの第一歩として有効です。

注意

所有不動産記録証明書は、登記簿上の氏名・住所と検索条件が完全に一致する不動産のみを抽出します。親の名義が婚姻前の氏・旧住所のままだと抽出されないケースもあるため、過去の住所や旧姓も把握しておく必要があります。

相続放棄の熟慮期間内に行うべき調査スケジュール

相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月です(民法915条1項)。これは単純に「死亡日」ではなく、自分が相続人であることを知った日が起算点になります。例えば、遺言書の開封や家庭裁判所からの通知で初めて相続人と知った場合は、死亡日ではなくその日が起算点となる可能性があります。

3か月以内にやるべきことの目安:

  • 第1週〜第3週:財産調査(通帳・登記簿・固定資産税通知書を集める)
  • 第4週〜第6週:債務調査(督促状・借入履歴の確認、信用情報機関の開示請求)
  • 第7週〜第8週:選択肢の検討(放棄・限定承認・単純承認の判断)
  • 第9週〜第12週:家庭裁判所への申述(放棄の場合)または登記準備(承継する場合)

期間内に判断できない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申立て」が可能です(収入印紙800円+郵便料)。ただし、伸長が必ず認められるとは限らず、調査を怠っていると認められないケースもあります。

【最重要】相続放棄を検討中の人へ「今すぐしてはいけないこと」

相続放棄を考えている場合、やってはいけない行為があります。これらを行うと、相続放棄ができなくなる「法定単純承認」とみなされるリスクがあるためです。

法定単純承認とは

民法921条により、以下の行為をすると「相続人が単純承認した」と法律上みなされ、放棄ができなくなります。

区分 該当する行為 注意点
危険行為(原則禁止) 相続財産(家・家財・預貯金など)を売却・処分・消費する
遺産から債務の一部を返済する
相続放棄前に家の解体工事を発注する
これらの行為を1つでも行うと、放棄できなくなる可能性が高い
安全な行為(原則OK) 葬儀費用の支出(社会通念上の範囲)
日常的な管理(掃除・簡単な修繕・草刈り)
固定資産税の支払い(延滞防止のため)
ただし、弁護士に確認しながら進めるのが無難
グレーゾーン 遺品整理(特に高価なものの処分)
銀行口座からの出金(葬儀費用以外)
個別判断が必要。必ず専門家に相談

すでに処分してしまった場合

「知らずに遺品を捨ててしまった」「親の預金を使った」という場合でも、必ず放棄ができなくなるとは限りません。一時的な保管や保存行為と認められるケースもあります。すでに危険行為に該当する恐れがある場合は、早めに弁護士または司法書士へ相談してください。

実際の相談例:
「親が亡くなったAさんは、とりあえず実家に向かい、冷蔵庫の腐った食品を捨て、玄関の鍵を預かったうえで、翌週に役所で固定資産税の名義変更手続きの相談をした。この時点でまだ放棄判断はしていなかったが、後日債務超過が判明し、弁護士に相談。鍵の管理は『保存のため』と認められ、固定資産税の相談は処分行為に当たらず、相続放棄が認められた。」
→ 日常管理の範囲にとどめ、財産を「減らす・消費する」行為を避ければ、調査期間を確保できます。

【ケース別】相続放棄以外で不要な家を手放す5つの方法

「家だけの相続放棄はできない」ことは理解できたものの、では不要な家をどうやって手放せばいいのか。ここからは、相続放棄以外で実際に取れる5つの方法を比較します。

どの方法を選ぶかは、(1)相続放棄の期限が過ぎているか、(2)家以外の財産・債務がいくらあるか、(3)物件の市場性と状態、(4)他の相続人の意向の4つで決まります。

選択肢 家を手放せる? 預貯金は残せる? 費用・負担金 手取り 他の相続人の同意 期間目安
①遺産分割で取得しない ◎(他の相続人が取得) ◎(他の財産を取得可能) ほぼ無料(協議書作成は数万円) 財産次第 全員の合意が必要 話し合い次第
②国庫帰属(土地のみ) △(土地のみ。建物は別処理が必要) ◎(土地以外は承継可能) 審査手数料1筆14,000円+負担金(宅地なら一律20万円〜80万円超) 0円(無償譲渡) 不要(単独申請可。共有なら全員同意) 審査に数か月〜1年程度
③相続して仲介売却 ◎(第三者へ売却) ◎(売却益も取得可能) 仲介手数料(3%+6万円+消費税が上限) 市場価格から手数料控除 相続登記後は不要 3〜12か月程度(市場次第)
④相続して専門買取 ◎(第三者へ売却) ◎(売却代金も取得可能) 0円(買取業者が負担) 市場価格の5〜8割程度 相続登記後は不要 1〜3か月程度(早い)
⑤相続放棄 ◎(ただし全財産) ✕(預貯金も放棄) ほぼ無料(収入印紙800円) 0円 不要(単独申述可) 3か月以内が期限

選択肢① 遺産分割で家を別の相続人に取得してもらう

遺産分割協議で、家を他の相続人(兄弟など)に取得してもらう方法です。自分は家以外の財産(預貯金など)を受け取ります。この方法なら、預貯金だけ受け取りつつ家を手放せるため、「家は要らないけど預貯金は欲しい」という多くの読者の希望に最も近い選択肢です。

ただし、以下の条件があります。

  • 家を引き取る相続人が必要:兄弟全員が「要らない」と言った場合は成立しません。
  • 全員の合意が必要:1人でも反対すると、遺産分割協議がまとまらず審判(裁判所の判断)へ移行します。
  • 代償金のリスク:家を引き取る相続人がいる場合でも、その人に代償金(他の相続人の取り分に相当する現金)を支払う余力があるかどうかが問題になります。家の査定額が高く、引き取り手にその現金がないと、結局売却にせざるを得ません。

現場でよくあるケース:
「父親が亡くなり、長男・次男・長女の3人姉弟で遺産分割を始めた。実家の査定額は1,200万円。貯金は800万円。長男は『俺は実家を継ぐ』と言うが、代償金として姉弟に400万円ずつ支払う余力がない。結局、実家を売却して1,200万円を現金化し、3人で分割することで決着した。」
→ このケースでは「遺産分割で家を引き取ってもらう」という選択肢は、代償金の問題で取れなかった。結果的に売却が現実的な解決策になった。

遺産分割で家を取得しない方向で話を進める場合、まずは「各相続人がどれだけの負担や恩恵を受けるか」を具体的な数字(固定資産税・修繕費・解体費・売却時の想定価格など)で示すことから始めると、感情論に流れずに話し合いが進みます。

選択肢② 相続土地国庫帰属制度(土地のみ)

2023年4月に始まった制度で、相続等で取得した土地を、一定の審査と負担金を支払うことで国に帰属させることができます(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)。

ただし、この制度で「家ごと」国に返すことはできません。なぜなら、制度の申請要件として「建物がないこと」が明記されているからです(却下事由A)。

  • 建物がある土地:申請は却下されます。建物を解体した上で、さらに他の却下事由がないことを確認してから申請します。
  • 審査手数料:1筆(1つの土地の登記単位)あたり14,000円(返還なし)。不承認でも戻りません。
  • 負担金:土地の種目・面積・地域によって異なります。例えば市街化区域外の宅地は一律20万円、市街化区域内の宅地は面積比例で計算され、50㎡以下の場合でも約23万円〜、200㎡超で80万円を超えるケースもあります。

国庫帰属の実績と取下げ理由(2026年5月末時点)

法務省の発表(2026年6月19日公表、5月31日時点)によると、制度開始からの累計は以下の通りです。

  • 申請件数:5,545件
  • 帰属件数:2,762件
  • 却下:81件
  • 不承認:85件
  • 取下げ:1,023件

取下げの内訳を見ると、その実態がよくわかります。

取下げ理由 件数 割合
有効活用の見込みが生じた 546件 約53%
却下・不承認となることが判明した 355件 約35%
その他 122件 約12%

ポイント

取下げの半数以上(53%)は「有効活用の見込みが生じた」ことが理由です。つまり、国庫帰属を検討していた人のうち、売却や買取の可能性が見つかって方針転換したケースが過半数を占めています。また、取下げ後も約35%は却下・不承認リスクに気づいて撤回したケースです。国庫帰属は「本当に売れない土地」の最終手段であり、まずは市場価値を確認してから判断するのが合理的です。

さらに、2026年6月には財務省が「国庫帰属した土地の評価額を最大93%引き下げて民間へ売却する」方針を固めたことが報じられています。つまり、国に引き取ってもらった土地は、国が大幅に値引きして売りに出される可能性があるということです。「売れないから国に譲る」という判断の前に、民間での売却可能性をしっかり確認しておかないと、後悔するケースも出てくるでしょう。

国庫帰属を考える場合、建物の解体を先に進める前に、二つの確認が必要です。一つは、解体後に国庫帰属の審査要件を満たすかどうか(法務局で事前確認)。もう一つは、建物がある状態でも買取や売却の可能性がないか(不動産会社で査定を出す)。この両方を確認した上で、どちらに進むかを決めるのが後悔しない順番です。

選択肢③ 相続して仲介売却

家に市場価値がある場合、相続した上で不動産会社に仲介を依頼して一般売却する方法です。相続登記が必要で、売却まで数か月〜1年程度かかる可能性がありますが、最も高額での売却が期待できるのがこの選択肢です。

向いている条件:

  • 立地が良く、一般の買い手がつく見込みがある
  • 建物の状態が比較的良好(または土地価格で売却できる)
  • 急いでいない(売却まで時間をかけられる)
  • 相続登記の手続きと費用を負担できる

向かない条件:

  • 過疎地・山間部で買い手がつかない見込み
  • 建物が著しく老朽化している
  • 共有名義で他の相続人の同意が得られない
  • 再建築不可・接道不良など訳あり要素がある
  • 早期の現金化が必要

選択肢④ 相続して専門買取に売却

相続登記を行った上で、不動産買取業者に直接売却する方法です。仲介と違い、買取業者が自社で物件を買い取るため、買い手がつかないリスクがなく、売却が確定している点が最大のメリットです。

  • 価格:市場価格の5〜8割程度が目安。仲介より低くなるのが一般的ですが、買取業者の査定次第で条件は変わります。
  • スピード:契約から1〜3か月程度で現金化可能。
  • 現況:残置物・老朽化・遠方でも、現況のまま買取可能なケースが多い。

特に、以下のような状況では買取が現実的な選択肢になります。

  • 仲介で買い手がつかない(または時間がかかりそう)
  • すぐに現金化したい
  • 遠方で管理・片付け・内見対応が難しい
  • 相続放棄の期限が迫っているが、売却で債務を返済できる見込みがある

ただし、買取業者によって対応できる物件の種類や査定額は大きく異なります。特に相続不動産の場合、「相続登記のサポートがあるか」「残置物の処理をどう扱うか」「契約不適合責任の免責範囲はどこまでか」を事前に確認しておく必要があります。

相続した家の「買取」を検討する場合、まずは複数の買取業者で査定を比較し、自分の物件に最も合った条件を提示する業者を選ぶところから始めます。業者によって査定額・対応スピード・登記サポートの有無・残置物の扱いが異なり、1社だけで決めると相場観がないまま契約することになりかねません。

条件別おすすめフロー(簡易診断)

上記5つの選択肢から、自分の状況に合ったものを選ぶ目安です。

状況 検討すべき選択肢(優先順)
相続放棄期限内で債務超過の疑いがある ①相続放棄 → ②限定承認(全員一致なら)
家以外の財産は受け取りたい/兄弟で話し合いができる ①遺産分割で取得しない → ②買取
土地に建物がなく、売れそうにない ①国庫帰属 → ②買取(査定次第)
建物があるが市場価値がありそう ①仲介売却 → ②買取(急ぎの場合)
建物が老朽化・遠方・特殊事情あり ①専門買取 → ②国庫帰属(解体後)
全員が放棄したいが3か月を過ぎた ①国庫帰属 → ②買取 → ③遺産分割協議

再建築不可・共有持分・事故物件など、物件に特殊な訳あり事情がある場合は、一般の買取業者よりも、そうした条件に強い専門業者で比較するほうがスムーズです。

相続人全員が家を取得したくない場合の注意点

「兄弟全員が家を要らない」というケースは珍しくありません。この場合、誤解されやすいポイントを整理します。

誤解:「全員放棄すれば自動的に国に行く」

なりません。相続人全員が相続放棄をした場合、相続人の地位は次順位の相続人(被相続人の父母・祖父母など)へ移ります(民法939条)。次順位の相続人も全員が放棄すれば、さらにその次の順位へ。最終的に誰も相続人がいない状態になると、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任し、その清算人が相続財産の換価処分を行います。

この間、建物や土地を管理する人が不在になるため、管理不全が進行し、空き家問題に発展しやすくなります。

相続財産清算人の選任と予納金

相続人全員が放棄した場合、利害関係人(債権者や次順位相続人など)の申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民法952条)。この手続きには20万円〜100万円程度の予納金が必要です。予納金は清算人の報酬や官報公告費用に充てられ、最終的に相続財産から優先的に弁済されます。財産が少ない場合、予納金が戻らないケースもあります。

全員放棄の選択は、単に「放棄届を出すだけ」ではなく、その後の手続きの負担や費用が誰にのしかかるかまで見据えて判断する必要があります。

相続放棄者の保存義務(2023年改正民法940条)

2023年4月の民法改正で、相続放棄をした人の「保存義務」の範囲が見直されました。

  • 改正前:放棄者全員が、次の相続人に引き渡すまで財産の保存義務を負う
  • 改正後現にその財産を占有している放棄者のみが、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務を負う

つまり、実家に住んでいない・鍵を持っていない・管理を一切していない放棄者には、保存義務は原則発生しません。ただし、「家の鍵を持っている」「定期的に様子を見に行っている」など、占有とみなされる管理をしている場合は保存義務が残る可能性があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 家だけ相続放棄できますか?

できません。相続放棄は、現金・預貯金・不動産・借金などを含む遺産全体が対象です。特定の財産だけを選んで放棄することは法律上認められていません。

Q2. 親が生きているうちに相続放棄の手続きはできますか?

できません。相続放棄の申述は、被相続人の死亡後にのみ可能です。親が存命中にできるのは、財産調査や生前の名義整理、遺産分割の方針を決める家族会議など、準備的な行動にとどまります。

Q3. 相続放棄の3か月を過ぎたらどうすればいいですか?

原則として相続放棄はできませんが、以下のケースでは可能性があります。(1)熟慮期間伸長の申立て(期限内にしていた場合)、(2)起算点が「死亡日」ではなく「相続人と知った日」として認められる場合。いずれにせよ、弁護士への早めの相談が必要です。

Q4. 相続放棄前に家の片付けや遺品整理をしてもいいですか?

注意が必要です。高価なものを処分・売却すると法定単純承認とみなされるリスクがあります。生鮮食品の廃棄や日常的な清掃(保存行為)はおおむね問題ありませんが、貴金属・骨董品・現金の処分は避けるべきです。判断に迷う場合は弁護士に確認してください。

Q5. 全員で相続放棄すれば、家は自動的に国のものになりますか?

自動的にはなりません。全員放棄 → 次順位相続人へ移行 → それも全員放棄 → 相続財産清算人の選任(予納金20〜100万円が必要) → 清算人が財産を換価処分 → 残余財産を国庫に帰属、という複数の段階を経ます。最終的に国に行くまでに長期の手続きと費用が発生します。

Q6. 相続土地国庫帰属で、家ごと国に返せますか?

できません。国庫帰属の申請要件として「建物がないこと」が明記されており(却下事由A)、建物付きの土地は申請できません。建物を解体した上で、追加の審査要件をクリアする必要があります。

Q7. 相続放棄したら、固定資産税や管理の義務はなくなりますか?

ケースによります。2023年の民法改正により、「現に占有している放棄者」のみ保存義務が残ります。住んでいない・鍵も持っていない放棄者には原則義務は発生しません。ただし、課税当局との関係や町内会の対応は別途確認が必要です。

Q8. 相続登記をしないで放置するとどうなりますか?

過料の対象になります。2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。2024年4月より前の相続は2027年3月31日までの経過措置が設けられています。全国の法務局で申請を受け付けています。

Q9. 兄弟の一人だけが家を相続することは可能ですか?

遺産分割協議で全員が合意すれば可能です。ただし、家を取得する兄弟には代償金の支払い義務が生じる可能性があります。また、家を取得した兄弟が住宅ローンを組めるかどうか(収入・信用力の問題)も現実的なハードルになります。

Q10. 相続した家を売る場合、仲介と買取どちらが得ですか?

条件次第です。一般的に、売却価格は仲介のほうが高くなりやすいですが、買い手がつくまでの期間や不確実性があります。買取は価格が低くなる一方で、確実かつ短期間で現金化できます。時間的な余裕があり市場性の高い物件なら仲介、早期売却が最優先なら買取が向いています。

まとめ|あなたの「次の一手」を整理する

「相続したくない不動産」の対処法を、状況別にまとめます。

あなたの状況 最初にやるべきこと
親が存命中 財産調査(登記・債務・固定資産税)を進める。不要なら親の生前売却を検討。家族会議で意向を共有する。
親の死亡後3か月以内 財産調査を急ぐ。債務超過なら相続放棄を視野に。3か月以内に判断できなければ伸長申立てを検討。
相続済み(3か月経過) 遺産分割協議 → 登記の順で進める。家を取得したくないなら売却・国庫帰属を比較。登記義務の期限(2027年3月末)を意識する。

いずれの段階でも、最初の一手は共通しています。「財産と債務の全体像を把握すること」「登記名義と不動産の状態を確認すること」「他の相続人の意向を聞くこと」の3つです。

相続放棄は強力な制度ですが、預貯金も失うという大きな代償があります。家だけを手放したい場合は、遺産分割や売却・買取など「相続した上で処分する」という選択肢が現実的です。その判断の際には、相続不動産に強い複数社の査定を比較し、自分の物件に本当に市場価値があるのかを確かめることから始めると、後悔のない選択につながります。

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