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空き家を相続したものの、「売るべきか、貸すべきか」で迷っていませんか。売れば親の家を手放す後ろめたさがある一方、貸せば家賃収入が入るのではという期待もある。しかし、判断を誤ると、税金の特例を失ったり、将来の売却に大きな制約が出たりすることもあります。
この記事の結論を先に言うと、空き家は「貸す方が絶対に得」「売る方が絶対に得」とは一概に言えません。重要なのは、空き家の状態・立地・権利関係・税金の条件によって、貸す向きか売る向きかが分かれるという点です。
本記事では、あなたの空き家が「貸すべきか売るべきか」を判断するための「5つのゲート」を用意しました。1つずつチェックしていけば、自分が次に取るべき行動が自然に見えてきます。貸す場合のリアルな収支や契約のリスク、売る場合の選択肢の違いまで、現場の視点を交えて解説します。
この記事を書いた人
訳あり不動産 買取相談センター 編集部
共有持分・再建築不可・空き家・相続不動産など、売却時に判断が難しい不動産情報を調査・整理する編集チームです。公式情報や公開データをもとに、相談先選びで迷いやすいポイントを中立的にまとめています。
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まず知っておきたい。空き家を「貸す」と「売る」の大前提
判断に入る前に、空き家をめぐる全体像と、貸す・売るの基本的な選択肢を整理しておきます。
空き家の現状:全国に900万戸、放置するとリスクが増す
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%と過去最高を記録しています。このうち賃貸用や売却用、別荘などの二次的住宅を除いた、いわゆる「その他の空き家」(管理が行き届かず放置されるリスクが高い空き家)は約385万戸にのぼります。
空き家をこのまま放置すると、2023年に改正された空家等対策特別措置法により、「管理不全空家」に指定され、行政から指導・勧告を受けるリスクがあります。勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(課税標準が6分の1に軽減される措置)の対象から外れ、税負担が大幅に増える可能性があるため、早めの対応が欠かせません。
貸す場合の契約の種類:普通借家と定期借家の違い
空き家を貸す場合、契約には大きく分けて「普通建物賃貸借(通称・普通借家)」と「定期建物賃貸借(通称・定期借家)」の2種類があります。この違いを理解していないと、後々「貸したせいで売れなくなった」「退去してもらえない」という事態になりかねません。
| 項目 | 普通建物賃貸借(普通借家) | 定期建物賃貸借(定期借家) |
|---|---|---|
| 契約の更新 | 借主に更新権あり。貸主は「正当事由」がなければ更新を拒めない | 期間満了で確定的に終了。再契約は双方の合意があれば可能 |
| 貸主の自由度 | 低い。売却や解体のために退去させたい場合、正当事由が必要でハードルが高い | 高い。期間満了で契約終了できるため、将来の売却や解体の制約が少ない |
| 書面の要件 | 口頭でも契約可能(ただし書面推奨) | 公正証書などの書面が必須。事前説明文書の交付・説明も必要 |
| 借り手の集まりやすさ | 比較的集まりやすい(借主にとって安心感がある) | 「更新がない」ことが敬遠され、借り手が限定されやすい。家賃が下がる傾向あり |
ポイント
定期借家は貸主に有利だが、借り手の募集には不利というトレードオフがある。どちらを選ぶかは、「将来、売却や解体の可能性があるか」「どの程度の家賃を期待するか」で変わる。
売る場合の選択肢:仲介・買取・空き家バンク
空き家を売る方法も、大きく3つに分かれます。
| 方法 | 特徴 | 価格 | スピード |
|---|---|---|---|
| 仲介 | 一般の買主を探して売却。市場価格に近い値段がつきやすい | 高い(市場価格) | 数ヶ月〜1年以上かかることも |
| 買取 | 不動産会社が直接購入。現況のまま、残置物があっても買い取ってもらえる | 仲介より低め(相場の6〜8割程度) | 早い(2〜4週間) |
| 空き家バンク | 自治体が運営するマッチングサイトに無料掲載 | 物件・地域による | 不透明。成約まで数年かかることも |
空き家の状態が良く、需要のあるエリアなら仲介が向きます。一方、老朽化が進んでいる・残置物が多い・遠方で管理が難しい場合は、買取の方が現実的です。空き家バンクは無料で始められますが、成約時期の保証はなく、「売れるまで待てるか」が判断のポイントになります。
【診断】あなたの空き家は「貸す向き」?「売る向き」?5つのゲートでチェック
ここからが本題です。以下の5つのゲートを順にチェックすることで、あなたの空き家が「貸す方向で検討すべきか」「売る方向で検討すべきか」「まず前提を整えるべきか」が明確になります。
ポイント
5つのゲートの判断ルール
・すべてのゲートを通過(クリア) → 貸す・売るの両方を検討可能
・ゲート①〜③のいずれかで「×」 → 売る方向で検討
・ゲート④で「×」 → まず登記・共有者調整・税制確認を優先
・ゲート⑤で「×」 → 賃貸は非推奨。安全確保と現況売却を優先
ゲート① 今後、自分や家族が住む予定はあるか
まず最初に確認するのは、「この空き家を将来、自分や家族が使う可能性があるか」です。
もし「子どもが独立した後の住まいとして」「いずれUターンするときに」といった可能性があるなら、売却も賃貸もいったん保留にして、維持管理のコストだけ最小限に抑える選択肢を検討しましょう。この場合、無理に貸すと、将来自分が使いたいときに退去してもらう必要が出てきます(特に普通借家ではハードルが高い)。
判断:住む予定がある → 売る/貸すの検討を保留し、維持管理方針を優先
判断:住む予定がない → ゲート②へ進む
ゲート② その立地に賃貸需要はあるか
空き家を貸す場合、最も重要なのは「借り手がつくかどうか」です。どれだけきれいにリフォームしても、需要のないエリアでは入居者は決まりません。
賃貸需要を見極めるポイントは以下の通りです。
- 最寄り駅から徒歩圏内か(駅徒歩15分以内が目安。それ以上は借り手が大幅に減る)
- スーパー・病院・学校などの生活施設が近くにあるか
- その地域の人口動態は(過疎地・人口減少エリアだと厳しい)
- 周辺に同程度の賃貸物件があり、実際に入居者がいるか
地方の過疎地や、駅から遠く車がないと生活できないエリアでは、いくら家賃を下げても借り手がつかないケースが少なくありません。
判断:賃貸需要が見込める → ゲート③へ進む
判断:賃貸需要が見込めない → 売る方向で検討
ゲート③ 修繕費を家賃で回収できるか
空き家を人に貸すには、ある程度の修繕・リフォームが必要です。築30年以上の戸建ての場合、以下のような費用がかかることが一般的です。
| リフォーム内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 部分リフォーム(水回り・壁紙・クロス程度) | 20〜150万円 |
| 水回り+内装中心のリフォーム | 100〜300万円 |
| 大規模リフォーム(全面改装) | 500〜1,000万円 |
| フルリノベーション | 1,000〜2,500万円 |
| 外壁・屋根塗装 | 30〜140万円 |
ここで大事なのは、「家賃収入の総額でリフォーム費用を何年で回収できるか」を計算することです。たとえば築古戸建てを貸す場合の家賃は、地域や状態によりますが、月5〜10万円程度が一般的です。
月8万円で貸せたとしても、リフォームに200万円かければ、家賃だけでは2年以上かけてようやく回収できる計算になります。さらに、管理委託料(家賃の5%程度)、火災保険(年間5〜15万円)、固定資産税、空室期間のロスを差し引くと、手残りはさらに減ります。
注意
「貸せば維持費が浮く」は誤解しているケースが多い。実際には、リフォーム費用+管理委託料+保険+固定資産税+空室リスクを差し引くと、むしろ赤字になることもある。貸す前に必ず「手残り」で収支を試算すること。
判断:修繕費を3〜5年以内に家賃で回収できそう → ゲート④へ進む
判断:リフォーム費用が高すぎて回収できない → 貸すより売る方向で検討。リフォームする前に、現況のまま買い取れる業者の査定を取って比較するのが現実的です。
ゲート④ 相続登記・共有者・税特例に問題はないか
このゲートは、多くの人が見落としがちですが、実は最も重要なチェックポイントです。
まず相続登記の有無。空き家の名義がまだ親のままの場合、売却も賃貸も原則としてできません。2024年4月からは相続登記が義務化されており、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料対象になります。
次に共有者の有無。兄弟姉妹で共有名義になっている場合、賃貸に出すには共有者全員の同意が必要です。売却する場合も同様で、1人でも反対する人がいると、自由に処分できません。
そして最も注意すべきは、相続空き家の3,000万円特別控除(空き家特例)の存在です。
相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を控除できる特例があります(国税庁No.3306)。しかし、この特例を使うには、「相続の時から売却の時まで、その家屋を貸付けの用・居住の用・事業の用に供していないこと」が要件です。
つまり、一度人に貸してしまうと、この3,000万円控除は使えなくなります。「いったん貸してから、後で売ろう」と考えているなら、この点を必ず理解しておいてください。
現場の視点
具体例で考える「貸すことで失う金額」
相続空き家を売却して3,000万円の譲渡所得(売却益)が発生した場合、空き家特例を使えば課税所得は0円。税金はゼロ。
しかし貸してしまって特例が使えない場合、長期譲渡所得の税率約20%(所得税15%+住民税5%)で計算すると、約600万円もの所得税・住民税が発生する。
「貸すことで得られる家賃収入」と「貸すことで失う節税効果」——数字で比較すれば、どちらを選ぶべきかが見えてくる。
判断:登記は済んでいる・共有者同意は得られる・税特例を考慮しても貸す判断が正しい → ゲート⑤へ進む
判断:相続登記が未了・共有者の同意が得られない・3,000万円控除を考慮すると売却が有利 → まず登記・共有者調整を優先。税制面から貸す判断を見直す
ゲート⑤ 老朽化・倒壊・管理不全空家リスクはないか
最後のゲートは、空き家の物理的な状態です。
以下のような状態に該当する場合、賃貸に出すのは現実的ではありません。
- 屋根や外壁が崩れかけている、雨漏りがひどい
- 建物が傾いている、シロアリ被害が深刻
- 倒壊の危険があり、近隣に被害を及ぼす可能性がある
- ゴミ屋敷状態で、片付けに数十万〜数百万円かかる
- すでに行政から「管理不全空家」や「特定空家」の指導を受けている
このような状態の空き家は、人を住まわせる前に安全面で問題があり、賃貸として募集することはできません。まずは建物の安全性確保と、行政からの指導リスクへの対応が優先です。
注意
倒壊リスクがある空き家は、売る/貸すの比較以前の問題。近隣への被害リスク、所有者責任(民法717条)、行政からの命令リスクがあるため、まず安全確保(必要なら解体も含む検討)を最優先にしてください。
判断:人を住まわせても問題ない状態 → すべてのゲートを通過。貸す・売るの両方向で検討可能
判断:老朽化が進み貸せる状態ではない → 賃貸は非推奨。現況のまま買い取れる業者に相談するか、解体して土地で売却する選択肢を検討
5つのゲートを通過した後の判断フロー
5つのゲートをすべてチェックした結果、あなたの空き家は以下のいずれかの状態になります。
| 診断結果 | 推奨される次の一手 |
|---|---|
| 全ゲートクリア | 貸す・売るの両方を比較検討。実際の賃貸査定と売却査定を並行して取るのがおすすめ |
| ゲート①〜③で×(立地・需要・収支の問題) | 売る方向で検討。賃貸として貸せる可能性が低いため、売却査定を取って現実的な価格を確認する |
| ゲート④で×(登記・共有者・税金の問題) | まず登記・共有者の調整を優先。税務面では3,000万円控除が使える売却が有利なケースが多い。税理士や司法書士に相談を |
| ゲート⑤で×(老朽化・倒壊リスク) | 賃貸は非推奨。安全確保と現況売却・解体を検討する。買取業者に状態を伝えて査定を取る |
貸す場合のリアルな収支とリスク
5つのゲートを通過して「貸す方向で検討してもよさそう」と判断した場合でも、貸すことにはさまざまなリスクとコストが伴います。ここでは、家賃収入の表面的な数字ではなく、実際の手残りで判断するための材料を整理します。
家賃収入だけでは判断しない。手残りで見る収支の考え方
「月8万円の家賃収入があれば、年間96万円。固定資産税くらいは余裕でカバーできる」—そう考えるのは早計です。貸す場合、収入から以下の経費を差し引く必要があります。
| 項目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 想定家賃収入(年額) | 60〜120万円 | 月5〜10万円想定。戸建てはアパートより単価が低い傾向 |
| 管理委託料(年間) | ▲3〜6万円 | 家賃の5%程度。戸建ては割高になる場合あり |
| 固定資産税(年間) | ▲5〜15万円 | 土地+建物。住宅用地特例適用後でもこの程度 |
| 火災保険(年間) | ▲5〜15万円 | 大家向け特約込みでこの程度。物件規模による |
| 修繕費積立(年間) | ▲10〜30万円 | 築古ほど多く見積もる。給湯器・エアコン・水回りの故障はいつ起こるかわからない |
| 空室リスク(年間) | ▲5〜10万円 | 入退去の1〜2ヶ月空室を想定 |
| 手残り(年間) | ▲10〜30万円程度 | 赤字になるケースも珍しくない |
3つのケースで比較する収支シミュレーション
「貸す」の収支は、物件の条件によってまったく違います。以下の3つのケースで比較してみましょう。
| 項目 | ケースA:貸しやすい物件 | ケースB:貸しにくい物件 | ケースC:ギリギリの物件 |
|---|---|---|---|
| 物件イメージ | 駅徒歩10分・築20年・軽微な修繕のみで済む | 駅徒歩25分・築45年・全面改装必要 | 駅徒歩15分・築35年・水回り交換のみで何とか |
| 初期リフォーム費 | 50万円 | 400万円 | 150万円 |
| 想定月家賃 | 10万円 | 5万円 | 6万円 |
| 年間家賃収入 | 120万円 | 60万円 | 72万円 |
| 管理委託料(5%) | ▲6万円 | ▲3万円 | ▲3.6万円 |
| 固定資産税 | ▲12万円 | ▲6万円 | ▲8万円 |
| 火災保険 | ▲8万円 | ▲5万円 | ▲6万円 |
| 修繕費積立 | ▲12万円 | ▲24万円 | ▲15万円 |
| 空室リスク(1ヶ月) | ▲10万円 | ▲5万円 | ▲6万円 |
| 年間手残り | +72万円 | +17万円 | +33.4万円 |
| リフォーム回収年数 | 約0.7年 | 約23年 | 約4.5年 |
| 総合評価 | 貸すのが合理的 | 貸すより売るべき | 要検討(売却査定と比較) |
ケースAなら貸すのが合理的ですが、ケースBのようにリフォーム400万円かけて月5万円の家賃では、回収に23年もかかります。その間に給湯器やエアコンが故障すれば、さらに費用がかさみます。この場合は、リフォームする前に現況のまま買い取れる業者の査定を取ったほうが、結果的に損をしない可能性が高いです。
普通借家で貸すリスク(更新拒絶できない・売却時の制約)
普通建物賃貸借で貸す場合、借主には更新権があり、貸主は「正当事由」がなければ契約の更新を拒めません。ここでいう正当事由とは、「自分が住む必要がある」「建物を取り壊して建て替える」などの事情があっても、借主に立ち退き料を支払うなどして初めて認められるとされるほど、ハードルが高いものです。
つまり、普通借家で貸してしまうと、以下のような事態が起こり得ます。
- 売却したいと思っても、入居者がいることで買主が限定される
- 売却価格が下がる(オーナーチェンジで売る場合、投資利回りで価格が決まる)
- 解体して土地を売りたいと思っても、入居者の退去が必要で数年かかることも
- 退去してもらうために立ち退き料(数十万〜数百万円)が必要になる場合がある
現場の視点
将来「売ろう」「解体しよう」と考えているなら、普通借家は慎重に選んだほうがよい。入居者が住み続けている間は、売却の選択肢が大きく狭まる。貸すなら「将来的に売る可能性があるか」までセットで考えておく必要がある。
定期借家で貸すリスク(書面要件・入居者不足・家賃下落)
定期建物賃貸借は、期間満了で確定的に契約が終了するため、貸主にとっては将来の自由度が高い契約です。「売りたいときにすぐ売れる」「解体したいときに退去してもらえる」というメリットがあります。
ただし、以下のようなデメリットもあるため、「定期借家なら安心」と単純化はできません。
- 書面契約が必須:公正証書などの書面が必要。また、契約前に「定期建物賃貸借であること」を書面で説明し、説明書を交付する義務がある。手続きのハードルが普通借家より高い。
- 借り手が集まりにくい:「契約更新がない」という制度上の特性から、長期住まいを想定する借主には敬遠される傾向がある。入居者が決まるまで時間がかかったり、家賃を下げざるを得なかったりする。
- 家賃が下がる傾向:募集時に条件の悪さをカバーするため、同エリアの普通借家物件より1〜2割程度家賃を低く設定する必要があるケースもある。
定期借家を選ぶ場合は、「入居者募集の難しさ」と「将来の自由度」を天秤にかけて判断しましょう。
貸した後に売るときの注意点(オーナーチェンジの現実)
「いったん貸してから、後で売ればいい」と考える方もいます。しかし、入居者がいる状態で売る(オーナーチェンジ)には、以下の点を理解しておく必要があります。
- 買主は一般的な住宅購入者ではなく、投資家が中心になる。そのため、価格は「その物件で得られる家賃収入の何年分か」で決まる(収益還元法)
- 家賃が低いと評価額も低くなる。空き家として売るより高くなる場合もあれば、逆に低くなる場合もある
- 住宅ローンは通りにくく、現金購入または投資用ローンが前提になるため、買主層がさらに絞られる
- 何より重要なのは、先に説明した3,000万円特別控除が使えなくなるリスク。相続空き家を貸してしまうと、この特例の適用要件を満たせなくなる。売却益が3,000万円あれば約600万円もの節税効果を失う可能性があるため、貸すことで得られる家賃収入と、貸すことで失う節税効果を、必ず比較してください
売る場合の選択肢と注意点
5つのゲートで「売る方向が現実的」と判断した場合、次は「どうやって売るか」を決める必要があります。ここでは、3つの売却方法を比較しながら、それぞれに向くケースを整理します。
仲介で売る(価格は高いが時間と条件あり)
一般的な不動産会社に媒介を依頼し、買主を探す方法です。一番高い値段で売れる可能性がある反面、以下の条件を満たす必要があります。
- 建物にある程度の価値がある(倒壊リスクがない・雨漏りがひどくないなど)
- 住宅ローンが使える物件である(再建築不可・違法建築でないなど)
- 買主が内見できる状態になっている(残置物の片付け・清掃が必要)
- 買主が見つかるまで待てる(一般的に3〜6ヶ月、需要が弱いエリアでは1年以上かかることも)
築古で状態が悪い空き家の場合、仲介では買主が見つからず、長期にわたって売れ残るリスクがあります。
買取で売る(早い・現況のまま・確実だが価格は抑えめ)
不動産会社が直接その物件を買い取る方法です。最大のメリットはスピードと確実性。査定から最短2〜4週間で現金化できるケースもあります。
- 残置物があっても、そのまま買い取ってもらえる
- リフォーム・片付けの手間がいらない
- ローン審査の必要がない(買取会社が現金で買うため)
- 買主を探す必要がない
価格は相場の6〜8割程度になることが一般的ですが、空き家の状態(老朽化・残置物・再建築可否など)によって評価は大きく変わります。「リフォームして売れるかどうかわからない」くらいなら、リフォームする前に買取査定も取って比較するのが現実的です。
空き家バンクで売る(無料掲載だが成約時期は不透明)
自治体が運営する空き家のマッチングサイトです。掲載は無料で、売却だけでなく賃貸にも対応している自治体が多いのが特徴です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 掲載しても必ず成約するとは限らない
- 成約まで数年かかるケースもある
- 価格交渉や契約手続きは自分で行う必要がある(仲介と違い、プロのサポートが限定的)
- 物件によっては自治体の補助金を受けられる場合があるが、条件は自治体ごとに異なる
空き家バンクは「売れればラッキー」というスタンスで、他の方法と併用するのが現実的です。
売る前に確認すべき3つのこと(名義・税金・現況把握)
売却を進める前に、以下の3点は必ず確認しておきましょう。
① 名義は誰にあるか
相続登記が済んでいない場合は、まず名義を相続人に変更する必要があります。売買契約は名義人が行うため、親名義のままでは売れません。2024年4月からは相続登記が義務化されているため、早めに手続きを進めましょう。
② 税金の特例が使えるか
相続空き家の3,000万円特別控除の要件を確認しましょう。売却時期の期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)に間に合うか、建物が昭和56年5月以前に建築されているかなど、細かい要件があります。要件に該当するなら、確定申告で控除を受けることができます。
③ 物件の現状を正確に把握する
雨漏り、シロアリ被害、設備の故障、残置物の量などを正確に把握しておかないと、査定額が大きく変わります。また、契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)の問題もあるため、売却時には現況を正直に伝える必要があります。
ポイント
古い空き家は、高額リフォームをする前に「現況のまま」で売れるかどうかを確認するのが鉄則。リフォーム費用をかけてから売ろうとすると、かけた費用が売却価格に反映されないことが多い。まずは買取査定や簡易査定で現状の価値を確認し、その上でリフォームするかどうかを決めるのが合理的。
貸すべきでない空き家・売るべき空き家の見分け方
5つのゲートを経て、ここでは具体的に「貸すより売ったほうがよい空き家」「売るより貸したほうがよい空き家」の特徴をまとめます。
「貸すより売るべき」空き家の具体例
以下の条件に1つでも当てはまるなら、賃貸よりも売却を優先的に検討したほうが現実的です。
- 駅から遠く、賃貸需要が乏しい:徒歩15分以上、バス便のみなど。借り手がつく可能性が低い
- リフォーム費用が高額で家賃回収に10年以上かかる:築古で全面改装が必要なレベル
- 老朽化が激しく、安全面で人を住まわせられない:雨漏り・傾き・シロアリ・外壁剥落など
- すでに管理不全空家・特定空家のリスクがある:行政から指導を受ける前に処分を検討すべき
- 遠方で管理が難しい:自分で物件を見に行けず、管理会社に任せるコストが収支を圧迫する
- 共有者が多く、全員の合意が難しい:賃貸は全員の同意が必要。売却も全員の同意が必要だが、現金化して分ける方が揉めにくい
- 3,000万円特別控除が使える状態で、かつ売却期限内:貸すより売る方が税金の面で有利
「売るより貸すべき」空き家の具体例
一方、以下の条件に当てはまるなら、賃貸も有力な選択肢になります。
- 立地の賃貸需要が強い:駅近・生活施設充実・人口増加エリアなど
- 建物の状態が比較的良好で、軽微な修繕で貸し出せる:大規模リフォーム不要
- 家賃収入でリフォーム費用+維持費を十分にカバーできる:手残りがプラスになる試算
- 相続登記・共有者の問題がなく、税特例の制約もクリアしている
- 将来の売却予定がなく、長期保有の意思がある
- 管理を任せられる信頼できる管理会社が見つかっている
売る・貸す以前に確認すべきこと【チェックリスト】
ここまでの判断材料を踏まえ、実際に動き出す前に確認すべき事項をチェックリストにまとめました。
相続登記は済んでいるか(義務化の影響)
2024年4月から相続登記が義務化されました。空き家の名義が亡くなった親のままの場合、以下の対応が必要です。
- 相続人全員で遺産分割協議を行い、名義を決める
- 法務局で相続登記を申請する(司法書士に依頼するのが一般的。費用は5〜15万円程度)
- 相続を知った日から3年以内に申請しないと、10万円以下の過料の可能性がある
- 「相続人申告登記」という簡易な方法もあるが、これは「相続人が誰か」を登記するもので、売却のための名義変更にはならない点に注意
売却も賃貸も、名義が相続人に移っていなければ契約できません。まずはこの確認から始めましょう。
共有者の同意は得られるか
複数の相続人がいる場合、空き家は共有名義になっていることがほとんどです。
- 賃貸に出す場合:共有者全員の同意が必要(民法252条)。1人でも反対すると賃貸契約は結べない
- 売却する場合:自分の持分だけなら単独で売却できるが、物件全体を売るには全員の同意が必要。共有持分だけの売却は評価額が下がる
共有者のうち連絡が取れない人がいる場合や、賛否が割れている場合は、弁護士や司法書士に相談した上で進めると安全です。
固定資産税・維持費の現状確認
空き家をこのまま持ち続ける場合のランニングコストを把握しておきましょう。
- 固定資産税(年間の課税額)
- 火災保険料(空き家用の保険もあり。年1〜3万円程度)
- 草刈り・庭木の手入れ(年2〜3回で2〜10万円程度)
- 軽微な修繕(雨漏り・シロアリ・設備故障など)
これらの維持費を把握した上で、「売る」「貸す」「持ち続ける」の比較材料にしてください。
遠方から空き家を管理する方法とそのコスト
空き家の所在地から遠方に住んでいる場合、自分で定期的に様子を見に行くのは難しいものです。そんなときに有効なのが空き家管理代行サービスです。
基本のサービス内容と料金相場は以下の通りです。
| サービス内容 | 料金目安(月額) |
|---|---|
| 基本巡回・点検(外観確認・郵便物整理・通水・換気・簡易清掃) | 5,000〜10,000円 |
| 上記+草刈り・庭木手入れ | 10,000〜15,000円 |
| オプション:年1回の屋内点検・修繕手配 | 別途見積もり |
管理代行サービスを利用すれば、遠方にいながら空き家の状態を定期的に把握でき、早期に異常を発見できます。ただし、管理会社に任せるコスト(年間6〜18万円程度)も収支計算に入れておく必要があります。「貸す」を検討するなら、この管理代行コストも賃貸管理委託料に含まれるかどうかを確認しましょう。
管理不全空家リスクの確認
空き家を放置していると、2023年の空家法改正で新設された「管理不全空家」に該当する可能性があります。
- 管理不全空家:このまま放置すると特定空家になるおそれがある状態。行政から助言・指導の対象
- 特定空家:倒壊・衛生害・著しく保安上危険・景観阻害など。勧告→命令→代執行の対象
勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(課税標準6分の1軽減)の適用が外れるため、税負担が最大6倍になる可能性があります。空き家を「まだ決められないから」とそのままにしておくリスクは、思っているより大きいのです。
よくある質問(FAQ)
空き家を貸す場合、リフォームは絶対に必要ですか?
必須ではありませんが、現状のままでは借り手がつかないケースがほとんどです。最低限、水回り(キッチン・浴室・トイレ)が使える状態、雨漏りがない状態、害虫被害がない状態は必要です。どの程度のリフォームが必要かは、賃貸管理会社に現況を見てもらって判断するのが確実です。
空き家バンクに登録すれば必ず借り手はつきますか?
保証はありません。空き家バンクは自治体が運営する無料のマッチングサイトですが、認知度や物件の露出は限定的です。成約まで数年かかることも珍しくありません。空き家バンクだけに頼るのではなく、仲介や買取と併用して検討することをおすすめします。
普通借家で貸した後、売りたいときはどうなりますか?
入居者がいる状態で売却することは可能ですが、買主が投資家に限られるため売却価格は下がる傾向にあります。入居者が退去してから売りたい場合は、正当事由が必要で、立ち退き料が発生するケースもあります。売却の可能性があるなら、定期借家で貸すか、貸さずに売却することを検討したほうが無難です。
相続登記が済んでいない空き家でも貸せますか?
原則として貸せません。賃貸契約は名義人が行う必要があります。親名義のままの空き家は、まず相続登記を行い、相続人に名義を変更してからでないと賃貸契約は結べません。
共有名義の空き家は貸すのに全員の同意が必要ですか?
必要です。民法第252条により、共有物の管理に関する事項(賃貸も含む)は、共有者全員の同意が必要とされています。1人でも反対者がいると賃貸契約を結ぶことはできません。売却についても、物件全体を売る場合は全員の同意が必要です。
固定資産税が上がるのはどのタイミングですか?
空き家を放置しただけで自動的に上がるわけではありません。管理不全空家や特定空家として行政から「勧告」を受けた時点で、住宅用地特例(固定資産税の課税標準が6分の1に軽減される措置)の対象から外れる可能性があります。勧告を受けると、土地の固定資産税が最大6倍近くになることもあるため、早めの対応が必要です。
老朽化で倒れそうな空き家はどうすればよいですか?
賃貸も通常の売却も難しいケースがほとんどです。まずは安全確保(近隣への被害防止)が最優先。状況によっては以下の選択肢を検討します。
- 現況のまま買い取る業者への相談(解体費を見込んだ上での買取査定)
- 補助金を活用した解体(自治体によっては空き家解体補助金あり。上限50〜100万円程度)
- 行政との相談(管理不全空家として指導を受ける前に、自主的に対応する姿勢を示す)
まとめ:自分の空き家に合った「次の一手」を選ぶ
空き家の「売るか貸すか」に正解は1つではありません。大切なのは、自分の空き家の条件を正確に把握した上で、どちらが現実的かを判断することです。
この記事で紹介した5つのゲートをもう一度振り返ってみてください。
- 自分や家族が使う予定はあるか
- 賃貸需要のある立地か
- 修繕費を家賃で回収できるか
- 相続登記・共有者・税特例に問題はないか
- 老朽化・倒壊・管理不全リスクはないか
この5つをクリアしていれば、貸すことも売ることも検討できます。クリアできない項目があるなら、その項目を優先的に解決するか、別の選択肢(現況買取・解体・専門家相談など)を考える必要があります。
判断に迷ったら、いきなりリフォームや大規模な片付けを始める前に、複数の不動産会社に相談してみることをおすすめします。売却査定と賃貸査定の両方を取って比較すれば、数字で判断できる材料がそろいます。
あなたの空き家に合った現実的な選択肢を見極めて、後悔のない「次の一手」を選んでください。
空き家の売却で迷ったら
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